騒音性難聴体験談

騒音性難聴の体験談です。一般的に認知が薄いのかもしれないので、危険性を知らせるために書きました。

それはオールナイトのライブから帰宅するときのこと。耳鳴りがしていた。外で音楽を聴いた後には毎回起こることなので気には留めなかった。仲間内では「クラブ耳」と呼んでいたこともあって、より一層いつものことかと思うのであった。

おかしいと思ったのは朝帰宅して昼まで寝ても耳鳴りが続いていたときだ。耳鳴りだけではない。聞こえる音がことごとくローパスフィルタをかけたような音になっている。難聴という言葉が思い浮かんだ。もしかして病院へ行った方がいいのかと思いながら、とりあえず「耳鳴り」をキーワードに検索してみた。

遠赤外線療法 - 症例:耳鳴りhttp://www.e-ryoho.co.jp/sample/smp/miminari.htm
長時間にわたり騒音にさらされた場合などに過度の音量に対して聴覚神経が自律的に脳へ伝える信号を抑制して脳を保護する事があり、騒音状態から通常または静かな状況に置かれますと耳鳴りを強く感じる事があります。通常は時間の経過に伴って消失しますが、数時間〜数日を経ても改善が得られない場合があり、このような耳鳴りを音響外傷と呼びます。この症状は音響ストレス(過度の音響)による聴覚神経の疲労と生理的な耳鳴りとが並行して生じているものと考えることができます

どうやらここで言う音響外傷という症状に合致している。次に「音響外傷」で検索。まず、時間経過で治るか治らないかを知りたい。

笠井耳鼻咽喉科クリニック自由が丘診療室http://www.linkclub.or.jp/~entkasai/onkyougaishou.html
症状
 それまでにも何度も同じような大きな音楽を聴いていても何でもなかった人に、ある日、急に発生します。ですからそれまで強大な音楽を聴いていても聴力が悪くならなかったからといって安心できません。自覚症状としては耳鳴り、難聴、耳閉塞感、めまい感があげられます。右か左の片方あるいは両側の耳鳴りと難聴が殆どの人で出現します。聞こえが悪いという訴えが無くても、右と左で聞こえ方が違うとか、音が二重に聞こえるという表現になることもあります。半数近くの方で耳が詰まった感じを訴えます。めまいがするとかふらふらする感じという訴えも数パーセントの方に現れます。

発症する誘因
 肉体的な過労状態、精神的ストレスが溜まっているとき、睡眠不足の時、飲酒しながら、激しく頭部や体を揺さぶりながら、強大な音楽を2時間以上にわたって聞き続けるときに、この病気は発生することがわかっています。

予後と治療
 程度の軽い場合は、症状があっても、それ以降に大きな音を聞かないようにしているだけで、翌日位には自然に治っています。数日症状が続いているような場合でも、早期に治療を開始できた人も治る率が高いと言われています。1週間以上経っても難聴や耳鳴りが続いている場合は非常に治りにくいので、少しでも耳が変だと思ったら出来るだけ早く耳鼻咽喉科を受診して診断と治療を受けてください。発病の原因が強大音響ということで、その病因に応じた根本的治療法はありませんが、耳鼻咽喉科ではビタミン剤、ステロイド、血管拡張剤、血流改善剤などのお薬などが使われます。重症の場合には入院して安静の上、点滴や高圧酸素療法などが行われることもあります。これらは突発性難聴の治療法に準じたものです。

目を引いたのは発症する誘因だ。クラブに行って酒が入らないわけは無い。音楽はサイケデリックトランスだ。激しく頭部や体を揺さぶるに決まっている。場所は新宿のFACEで初めて行ったのだが、とても強大で気持ちのいい音量だった。23:30〜6:00までいたので睡眠不足。足腰はとても疲れている。なんということだ。あまりにもそのまんまではないか。
問題は1週間経っても症状が続く場合は非常に治りにくいとされていることだ。つまり最悪の場合、耳鳴りと難聴が慢性化してしまう。勘弁してくれ。治療方法は薬物投与らしい。もう少し調べてみよう。

音響外傷性難聴http://www.nantyo.com/nantyu-7.html
 音響外傷性難聴の原因ですが、衝撃音にさらされることによって、蝸牛の有毛細胞が傷つき、音の情報を聴神経に伝達することができなくなって起こります。障害は一時的なものですが、放置しておくと、敏感な有毛細胞が死んでしまい、完治が困難になってしまいます。

大音量が内耳を傷つけ、放置すると細胞が死ぬために完治が困難となるらしい。他にも同様に、早期治療を薦める記事がいくつも見つかった。中には早期治療をしても聴力が戻らないケースも見られた。単に煽っているだけかとも思ったが、なかなか治らずに闘病を続ける方のblogがいくつも見つかった。なんということだ。早く治療しないといけない。

さて、もう一つ問題なのは、このライブが5/3に行われたことだ。2009年5月3日はゴールデンウィーク真っ只中。大抵の病院は日曜・祝祭日は休診日である。カレンダーから考えれば次の診療日は5/7だが、そこまで放っておいたらこの耳が治らない可能性が高くなるばかりだ。幸い近所にゴールデンウィーク中に診療する耳鼻科があった。もし無かったらと思うと、なかなか恐怖である。
応急処置として、これ以上内耳を傷つけないように耳栓をし、夕飯はビタミンB12を多く含む食べものとして鳥レバーとあさりバターにした。気休めだが。

翌日の朝、早速耳鼻科に行った。GW中の臨時診察日だからなのか診察待ちの方が大勢いた。9割は親子連れ。私に順番が回り、医者にいきさつと症状を説明すると、聴力検査を受けることになった。「あぁーライブね」と知った顔である。慣れてそうだから治ると安心した。検査内容は、色々な周波数のサイン波が鳴らされ、聞こえている間だけボタンを押し続けるというもの。健康診断か何かで似たような検査をやったことがあったが、そのときは全ての音が聞こえた記憶がある。健康体ならこの検査でNGは無いと思っていた。しかし今回は自信が無い。鳴ってるのがテスト音なのか耳鳴りなのか区別がつかない。多分鳴っている、多分鳴っていない…という判断をしながら検査を終えた。結果、4kHz周辺がガクッと下がっていることがわかった。

ビタミン剤、ステロイド、漢方など、計6種の薬を処方された。
「騒音性難聴と言いまして、こじらせたり、運が悪いと一生治りません。大抵は薬を飲み続ければ治ります。1〜3週間の個人差はありますが。」
大体調べた通りだった。ついでに早く治る食べ物はあるかと聞いて、レバーとあさりが正解だったか確かめようとしたが、特に無いから薬を飲んでくれと。結局GW中は朝・昼・晩と律儀に薬を飲み続けた。また、GWから音楽製作を開始しようとしていた矢先のことであったが、やむなく自粛した。

1週間後に再検査し、検査上では通常の聴力になっていた。耳鳴りも無くなった。案外あっさり治ったので大したこと無いか…と思ったがそんなことはない。元通りに治ったと勘違いする程度に内耳の細胞は死んでいて、感度が悪くなっているかもしれない。それどころか、放っておけば治ると判断して、ずっとローパスフィルタを抱えて生きていくかどうかの瀬戸際だったと認識すべきだ。

Twitterにこのことを書いた後、ありがたいことにfollowerの何人かから「耳は大丈夫か?」と声をかけられた。そして気づいたことは、彼らはプロではないがいずれも音楽製作に5年以上は関わる身で、大きな音を長時間聞く機会があるだろうにもかかわらず、この騒音性難聴の症状と危険性を誰も知らなかったのだ。たまたまかもしれないが一般的に認知されていないのかもしれない。知っていれば、すぐに薬をもらい、内耳の細胞を回復させることができる。知らなければ「じきに治る」と判断して内耳の回復が絶望的な状態になりかねない。このエントリーで少しでも騒音性難聴の知名度が上がり、誰かの助けになることを願う。